北九州・遠賀・中間のいちばん身近な法律事務所を目指して

お知らせ&コラム

2024.05.23
自己破産でも手元に残すことができる財産(自由財産)とは

1 自由財産とは
 原則として、自己破産をすると、破産者は破産手続開始の時において有する一切の財産(国内国外問わず。)を破産財団(簡単に言うと、破産手続の中で取り上げられてしまう財産のこと)とされ(破産法34条1項)、自由に管理処分ができなくなります。
 もっとも、破産者の家具家電やお金といったあらゆる財産が取り上げられてしまうと破産者は生活できませんので、上記の例外として、最低限度の生活を保障する観点から、手元に残すことができる財産、すなわち「自由財産」が認められています(破産法34条3項)。

2 自由財産の具体的内容
破産法で自由財産として定められているのは、
 ①99万円以下の現金(預貯金ではなく現金です。)
 ②差押禁止財産
 ③自由財産として拡張が認められた財産
の3種類に分けられます。以下、順番に説明します。

3 99万円以下の現金(①)
 ここでいう現金はあくまで紙幣や硬貨といった純粋なキャッシュ(cash)をいい、銀行や信用金庫などの預貯金は含まれません(預貯金も「現金相当物」と扱う裁判所もあるようですが、それも運用上の解釈に過ぎないと思われます。)。
 したがって、99万円以下の現金であれば、破産を申し立てても手元に残すことができるということになります。

 少しややこしい話になりますが、法律的に説明すると、民事執行法131条3号及び民事執行法施行令2条が、現金66万円以下の手持ち現金を「標準的な世帯の二月間の必要生計費」として差押さえることができないものと規定しており、破産法はこれをさらに拡大して、この66万円に2分の3を乗じた額(99万円)の金銭を手元に残すことができる財産と定めているのです(破産法34条3項1号)。
 なお、「それなら破産を申し立てる前になるべく現金にして手元に置いておこう」との考え方も出てくるとは思いますが、直前に財産を現金化することは免責などに影響するリスクもありますので、依頼する専門家と慎重に協議するようにしましょう。

4 差押禁止財産(②)
 上記の現金以外にも、生活保障の観点から、法律上類型的に認められている自由財産が②差押禁止財産です。
 これは民事執行法131条に規定されていますのでご参照いただければと思いますが、ほとんどの人にとって重要なのは生活に不可欠な衣服や家具家電といった生活必需品(冷蔵庫や洗濯機、テレビ、エアコンなど)だと思います。これらは広く自由財産として認められていて、よほど高価なもの(例えば20万円以上の価値のあるテレビ〔購入価格でなく、中古で売れる価格。〕など。)や不必要な数を余裕していない限り、自己破産をしても手元に残すことができます。

5 自由財産として拡張が認められた財産(③)
 これまで述べた①と②については法律によって画一的に自由財産と認められているものですが、この他にも「裁判所の運用」や「裁判所の判断」で自由財産と認められるものが、③自由財産として拡張が認められた財産です(「自由財産の拡張」といいます。)。

 ⑴ 「裁判所の運用」により拡張が認められるもの 
 「裁判所の運用」により拡張が認められる自由財産としては、主に以下のようなものがあります。ただし、各地の管轄裁判所でそれぞれ運用は異なり、あくまで一例ですのでご注意ください。
 ※ 裁判所の運用により拡張が認められることの多い自由財産
  ・預貯金(合計20万円以下までとするケースが多い。)
  ・保険契約解約返戻金(合計20万円以下までとするケースが多い。)
  ・自動車(初度登録から5年を経過した自動車で、高価な類型を除外するケース
       が多い。)
  ・居住用家屋の敷金等返還請求権
  ・退職金債権のうち支給見込額の8分の7相当額
   (8分の1相当額が20万円以下である場合には、その全額などとされる
    ケースが多い。)
  ・差押えを禁止されている動産又は債権

 上記は、いわゆる20万円基準(財産ごとに「20万円を超えるかどうか」で自由財産とするかを判断する。)ですが、この他にも「財産全てをみて合計額が99万円を超えているかどうか」で自由財産とするかを判断する運用もあるようです。
 
 ⑵ 「裁判所の判断」で個別具体的に拡張が認められたもの
 これまでに説明した自由財産に該当しない場合でも、どうしても自由財産の拡張を認めてほしい財産がある場合、破産者が申立を行うことで、自由財産の拡張が認められることがあります。
 例えば、「解約返戻金が20万円を僅かに超える保険があるが、解約されてしまうと持病により保険に入れず、今後の生活が困難になる」、「価値のある車であるが業務に不可欠であり、車を失うと仕事ができずに収入が得られない」などの場合です。

 この根拠規定は、破産法34条4項にあり、同規定によれば、
「裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。」
とされています。なお、この決定をするにあたっては、裁判所は破産管財人の意見を聞かなければなりません(破産法34条5項)。

 条文上は、裁判所が職権で行うこともできるとされていますが、実際は破産者が申立てを行わなければ拡張されないケースがほとんどで、この点も破産手続に十分な知識がないと困難ですので、弁護士への依頼が望ましいと言えるでしょう。

6 新得財産
 自由財産とは異なりますが、破産手続開始決定後に新たに取得した財産を「新得財産」といい、これも破産者の手元に残すことができるものですので、ここで紹介しておきます。
 そもそも、自己破産によって自由な処分等を制限される財産は、破産手続開始決定時までに有していた財産に限られており、開始決定後に新たに取得した財産(新得財産)は、自己破産手続に関係なく破産者が自由に管理処分をすることができます(破産法34条1項、固定主義)。 
 したがって、例えば、破産を申し立ててからボーナスが入金された場合には、入金が開始決定前であれば原則として破産手続の中で処分される対象となってしまいますが、開始決定後であれば自己破産手続の中で処分されることなく当然に手元に残すことができます。

 このように開始決定の時期で財産を残せるかが大きく変わる場合もありますので、申立てに際しては弁護士にご相談することをお勧めします。