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2024.06.11
相続放棄①(放棄する際の注意点)

相続を前にした相続人には、以下の3つの対応を選択することできます。

①単純承認
 相続を受入れ、資産・債務を含めて被相続人の遺産を承継する

②相続放棄(民938)
 相続により生じる一切の権利義務の承継を放棄する

③限定承認
 相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続を承認する

 今回は上記のうち「相続放棄」の注意点について説明いたします。

1 手続を経なければならないこと

 相続放棄については、「放棄します」とだけ連絡することで足りると勘違いされている方がいらっしゃいますが、実際は家庭裁判所に放棄の申述を行わなければなりません。
 管轄は亡くなった方(被相続人)の最後の住所地の家庭裁判所となります。
 特別な事情がない場合、必要な資料さえ揃えば、専門家に依頼せずに手続きをすることも難しくありません。

2 期間制限(熟慮期間)

 相続放棄には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」にしなければならないという期間制限があります(民915)。
 このような期間を設けたのは、相続人が、相続開始の原因事実とこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った場合には、通常、それらの事実を知った時から3か月以内に、調査すること等によって、相続すべき積極及び消極の財産の有無、その状況等を認識し又は認識することができ、単純承認若しくは限定承認又は放棄のいずれかを選択すべき前提条件が具備されるだろうとの考えに基づいています。

 上記期間内に相続財産の状況を調査してもなお相続を承認するか放棄するかを判断する資料が得られない場合は、相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てにより、家庭裁判所はその期間を伸ばすことも可能です。

3 特別の事情による熟慮期間経過後の相続放棄が認められる場合

 熟慮期間を経過した場合であっても、相続人が相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて、その相続人に対し、相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって相続人において上記のように信じたことについて相当な理由があると認められるときには、相続放棄の熟慮期間は相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時、または通常これを認識しうるべき時から起算すべきとして、相続放棄が認められる場合があります。(最高裁判所昭和59年4月27日民集38巻6号698頁)
 とはいえ、特別事情が認められる場合は非常に限定されているため、基本的には熟慮期間内の相続放棄を行うべきでしょう。

4 単純承認していないこと

 一度相続を承認してしまうと相続放棄をすることはできなくなります。
 そのため、相続放棄を検討される場合には、民法が定める法定単純承認事由に該当しないよう注意をしなければなりません。

 法定単純承認事由(民921)には、
 ①相続財産の全部または一部の処分
 ②熟慮期間(民915)の経過
 ③相続財産の隠匿・消費等
 が規定されています。

 このうち、相続財産の処分は、相続を単純承認する意思の現れであると解されていますが、保存(管理)行為 は明示的に除かれています。

 そこで問題となるのが、どのような行為が「処分」に当たり、どのような行為が「保存行為」にとどまるかです。
 裁判例では下記の判断がなされた事例がありますが、この基準を一般化することは困難であり、個別的判断によるしかありません。放棄か承認かの方針が定まるまでは、相続財産の処分等に該当する可能性がある行為は行わない方が得策でしょう。
 
〈処分行為に当たるとされたもの〉
 ・被相続人の保険金請求権に基づいて受領した保険金の処分
 ・被相続人が貸していたお金を取り立てて領得した
 ・相続人間の遺産分割協議  など

〈処分行為に当たらないとされたもの〉
 ・被相続人の未払い賃料の相続財産からの支払
 ・他人への相続財産の無償使用の承認
 ・形見の趣旨の背広上下等の持ち帰り など