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2024.08.10
相続放棄②(相続放棄の 効果、放棄後の注意点)

※このコラムは相続放棄①の続きになります。

1 相続放棄の効果

 相続放棄をした場合、その相続に関して、初めから相続人とならなかったものとみなされる(民939)ことになります。

 この効果により、被相続人に借金があっても引き継がなくてよく、また面倒な遺産分割の際のトラブルに巻き込まれることもなくなるなどのメリットが得られますが、他方で、被相続人にプラスの財産があっても引き継ぐことができなくなる点がデメリットとなります。

 したがって、相続放棄をするかどうかを検討する場合には、相続財産の調査や相続人の調査を行い、メリットとデメリットを比較することが重要です。もちろん、生前の関係性などを考慮して、相続放棄をするかどうかを検討するケースもあるでしょう。

2 相続放棄後の対応や注意すべきこと

①債権者への対応

 被相続人(亡くなられた方)に対して何らかの請求ができる者(債権者など)が法定相続人を調べて連絡をしてくることがあります。この場合、相続放棄の申述を行った者は受理されたことの連絡をすると、以後の連絡されるのを止めてもらえることがほとんどですので、裁判所から交付される「申述受理通知書」や「申述受理証明書」を添付して、相続放棄をした旨を連絡することをお勧めします。

②次順位相続人への請求の可能性

 例えば、負債を残して被相続人(亡くなられた方)が死亡した場合に、すべての子どもが相続放棄をすると、子どもはそもそも相続人ではなかったという扱いになるため、その相続権は第二順位となる被相続人の両親へと移ることになります(両親がいなければ第3順位の「きょうだい」へ)。
 このように相続放棄をすることで、その順位の相続人が不存在となり、次順位の相続人へ相続権が移る場合には、次順位の相続人が「自身が相続人となったことを知ったとき」から期間制限(熟慮期間)の始期が始まります。
 そのため、相続放棄をした人が次順位となる相続人に放棄したことを連絡するかどうかは、次順位の相続人にとって非常に重要な問題となるため、十分に検討してから行う方がよろしいかと思います。
  
③相続放棄の限界

 相続放棄をした者は、「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」と規定されています(民940)。
 相続放棄後に管理責任が問題となるのは、古い家屋(空き家)などが考えられます。
 このような家屋は財産的価値が無いか、むしろ建物取壊し費用が発生してマイナスになってしまうような財産であり、宅地が売れる土地であればその売却代金で家屋を取壊す等の方法によって何とかなるかもしれませんが、そもそも売却可能な土地であれば相続放棄を検討しないケースが多いといえます。
 そのため、結局のところ、このような負の財産の処理は相続放棄では逃げ切れない現実があります。廃墟で倒壊寸前の空き家を放置しておくことで近隣に何らかの被害を与えてしまった場合には、管理義務を負う相続人が損害賠償責任を負うこともあり得ると思います。管理を継続したくないのであれば、裁判所に相続財産管理人の選任申立てを行い、その管理人に相続財産を引き継ぐことで管理義務を免れることができますが、その場合に選任申立て費用を申立人が支払わなければいけなくなる点がネックになるかと思います。

④相続放棄の申述受理=有効ではないこと
 相続放棄の申述受理は、相続人の放棄の意思表示があったことが公に証明されるだけであり、実体要件を欠く場合には訴訟手続で争うことが可能です。
 相続放棄は無効であるとして裁判によってそれが認められてしまえば、相続したことを前提とした責任を負うことになりますので、その点は予め理解しておく方がよいでしょう。