お知らせ&コラム
結婚している夫婦のどちらか一方が浮気や不倫をした場合、「不貞な行為」(民法770条1項1号)として不法行為(民法709条)に当たり、慰謝料請求をすることができると解されています。
1 「不貞行為」の意義
最高裁判所が、「不貞な行為」(民法770条1項1号)について、「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうのであって、この場合、相手方の自由な意思にもとづくものであるか否かは問わないものと解する」と判示(最高裁第一小法廷昭和48年11月15日・判タ303号141頁)していることもあり、
『貞操義務に違反して別の異性と性的関係を結ぶこと』
を不貞行為と定義されるのが一般的です。
性的関係を結ぶに至らない行為についても争う余地はありますが、不貞慰謝料として請求が認められるかどうかの判断は微妙になることが考えられます。
2 請求の相手方は誰か
不貞慰謝料は、配偶者と不倫相手双方に請求することができると解されています。配偶者のみや不倫相手のみに請求することも可能ですが、それぞれに請求しても受け取る金額が倍になるわけではなく、二重取りはできません。
配偶者が法的責任を負う根拠は、不貞行為が離婚事由となっていることなどから説明されます。
他方で、不倫相手が法的責任を負う根拠は実はあまり明確ではありませんが、現代の国民一般の法意識に照らし、不貞行為を奨励すべきではなく、不貞行為の相手方を婚姻破壊の共同不法行為者として法的責任を負わせるべきだと考えられているからだといえるでしょう。
3 不貞慰謝料が認められない場合
①婚姻関係が破綻していた場合
配偶者が不倫をした時点で、すでに婚姻関係が実質的に破綻していた場合、不貞行為があっても不法行為に当たらず、慰謝料請求は認められません。なぜなら、法的に保護されるべき婚姻関係という利益(保護法益)が存在しないからです。
例えば、戸籍上夫婦ではあるものの長年にわたって別居して互いに交流等もしていない場合などは、「婚姻関係が破綻していた」と認定される可能性があります。
また、不貞行為の相手方が「既婚者だとは知らなかった」等の場合には、相手方に対する不貞慰謝料請求は認められません。
②消滅時効にかかる場合
不貞行為に基づく損害賠償請求権は不法行為に基づく債権であることから、3年間の消滅時効(民法724条)が適用されます。ここで注意が必要なのは、配偶者との関係では、不貞行為の結果離婚に至った場合と離婚に至らなかった場合で消滅時効の起算点の考え方が異なるということです。詳細まで説明すると長くなるため、今回は説明しませんが、詳しく知りたい場合は専門家への相談をお勧めします。
③不貞行為の立証ができない場合
不貞行為があったことの立証責任は請求する側にあるため、配偶者が不貞行為を認めずに請求者が不貞行為の立証ができない場合にも、不貞慰謝料の請求は認められません。そのため、請求するためには、不貞行為があったことを推認させる証拠を準備することが必要です。イメージしやすいのは、浮気相手とホテルや自宅に出入りする写真や性的関係があったことをうかがわせるメールやLINEですが、興信所等に依頼して調査報告書などが提出することも有用な証拠となり得ます。
4 不貞慰謝料の金額の相場について
慰謝料の支払額は、双方で合意した金額であればいくらでも構いません。
もっとも、金額に争いがある場合には、訴外での交渉や訴訟で決めるしかなく、その場合では過去の裁判例等を踏まえた相場を意識することが重要です。
一般的な相場としては、「50万円~300万円」と言われることが多く、500万円を超えるケースはあまり見られないと思われます。その中で、どのくらいの請求をするのかは自由ですが、次のような個別事情を検討することが多いため、参考されるとよいでしょう。
・不貞行為時点の夫婦関係(円満かどうかなど)
・結婚生活の期間
・不貞行為の期間や回数、経緯
・不貞行為発覚後の相手方の態度
・不貞行為によって夫婦や子に与えた影響
・当事者の地位や収入等(本来は直接的な考慮要素とはなり得ないが、影響があることは否定できないと思われます。)