お知らせ&コラム
1 被害者死亡の場合における近親者固有の慰謝料とは
ご家族が交通事故による被害によって命を落とされた場合、残されたご家族が大きな精神的苦痛を被ることは言うまでもありません。
民法711条は「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。」と規定しており、被害者の損害とは別に、近親者に固有の慰謝料を認めています。
2 誰が請求できるか(請求主体)
民法711条は、その請求主体を「被害者の父母、配偶者及び子」と定めています。
もっとも、
①民法711条所定の者と実質的に同視できる身分関係にあり、
②被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けたと認められる者
にも、民法711条を類推適用して、加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求できると解されています(最判昭和49年12月17日最高裁判所民事判例集28巻10号2040頁)。
例えば、内縁の配偶者や長年共に生活をしてきょうだいや祖父母、孫などは、固有の近親者慰謝料が認められる可能性があります。実際には、同居の有無や同居期間、扶養状況、被害者や請求者本人の特性、事案の重大性や悪質性などが総合的に考慮されることになるでしょう。
3 具体的金額について
裁判例によれば、被害者側の事情と加害者側の事情を考慮し、1つの解決策として、近親者に固有の慰謝料は認めつつも、被害者自身の死亡慰謝料と近親者の固有の慰謝料の総額は、必ずしも増額しない傾向にあります。
すなわち、死亡慰謝料の相場は、弁護士基準(裁判基準)といわれる赤本によれば、
一家の支柱(収入により家計を支えている者) 2,800万円
母親・配偶者 2,500万円
その他 2,000万円~2,500万円
とされており、基本的にはその範囲内に被害者自身の死亡慰謝料と近親者の固有の慰謝料が含まれることになります(個別具体的事情によって増減することもあります)。
他方で、自賠責保険では、
被害者自身の死亡慰謝料 400万円
近親者1名の場合 550万円
近親者2名の場合 650万円
近親者3名以上の場合 750万円
と定められており、また被害者に被扶養者がいるときは、上記金額に200万円が加算されます。
そのため、被害者にも過失がある場合などには、自賠責保険の基準も計算に入れて具体的金額の妥当性を判断することが必要となります。
4 重度後遺障害事案について
被害者が重度の後遺障害を負った場合、被害者本人の後遺障害慰謝料に加えて、近親者についても固有の慰謝料が認められる場合があります。
この点は、本コラムでは詳しく説明しませんが、これまで説明した死亡慰謝料とは異なり、慰謝料の総額は増額となることが想定されておりますので、別の検討をする必要があることに注意が必要です。