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お知らせ&コラム

2025.06.30
高次脳機能障害とは

1 高次脳機能障害とは
 交通事故で脳に損傷を負った場合、高次脳機能障害という後遺障害が残存する可能性があります。高次脳機能障害は、一般的に、交通事故等で脳が損傷され、一定期間以上、意識が障害された場合(ただし、必ずしも意識障害が必要とは限りません。)に発生し、CTやMRIなどの画像診断で脳損傷が認められることが特徴です。
 具体的な障害としては、認知障害(記憶障害や集中力障害、遂行機能障害)や行動障害(周囲の状況に合わせた適切な行動ができないなど)、人格変化(穏やかだった人が急に怒りっぽくなるなど)など多岐にわたる症状が認められており、これにより仕事や日常生活に支障が生じてしまうことになります。

2 自賠責保険において必要とされる書類について
 交通事故による高次脳機能障害が疑われる事案において、自賠責保険の調査では、一般的に、
①頭部、脳の検査画像(CTやMRI)
②頭部外傷後の意識障害についての所見
③神経系統の障害に関する医学的意見
④日常生活状況報告書
の提出を求められます。
 ①は検査したCTやMRIなどの画像ですが、②から④は臨床所見に関するものであり、これらの結果を総合的に勘案した上で判断されることになります。事案によっては、診療録(カルテ)やその他の資料も必要となることもあります。

3 画像所見(①)
 頭部、脳の検査画像は、脳の器質的損傷を確認するために重視される傾向にあります。一見すれば客観的に明らかな資料に思えますが、びまん性軸索損傷を含むびまん性脳損傷の場合はCTだと正常に見えてしまうこともあるため、医師も見落とす可能性があることもあるなど注意が必要な点もあります。

4 頭部外傷後の意識障害についての所見(②)
 「頭部外傷後の意識障害についての所見」とは、受傷直後から1ヶ月前後までの意識障害の有無や程度を知るための医証です。
 意識障害は、脳の機能的障害が生じている指標の1つであり、主治医(主に急性期病院の医師)が作成するこの医証は極めて重要であり、「頭部外傷後の意識障害についての所見」に記載されている意識障害の程度で、高次脳機能障害が認定されるが決まることも少なくありません。
 特に受傷直後の意識障害の有無や程度が重要ですが、多発外傷の場合、救命が最優先されるために、頭部外傷の対応が後回しになり、医療記録に十分な記載がされていないことも考えられます。意識状態を評価するJCSやGCSが正確に記載されなければ整合性が取れなくなることもあり、そのような場合は医師に確認する必要もあるでしょう。

5 神経系統の障害に関する医学的意見(③)
 「神経系統の障害に関する医学的意見」とは、画像所見(特に脳委縮や脳挫傷痕)や神経心理学検査(知能、記憶、注意力、言語能力など)の結果のみならず、運動機能、身の回り動作能力、てんかん発作の有無、認知・情緒・行動障害及びそれによる日常生活への影響、社会での活動状況や適応状況を医師に作成してもらう医証です。
 医師は被害者と短時間の中でしか会話や検査ができませんので、多くの部分は従前の被害者のことを知る家族などからの情報提供が重要となります。
 そのため、家族が医師に対して的確に状況を伝えることができるように事前に準備をしていることが望ましいでしょう。

6 日常生活状況報告書(④)
 「日常生活状況報告書」とは、家族や近親者などが自賠責保険に対して、被害者本人にどのような症状が残存しているかを報告する書面です。このような書面は、医師が作成する医証とは異なり、家族などの専門家ではない者が作成する書面には主観性が強く反映されてしまうため、後遺障害認定においては重要視されないことが一般的ですが、高次脳機能障害においては日常生活との比較が重要となるため、この書面も医証と同等程度に評価される傾向にあります。
 「日常生活状況報告書」は、「受傷前」と「受傷後」を比べる形で0~4という点数評価で記載をする形がとられています(該当なしの「N」もあります)。
 あくまで本人の受傷前後に着目して、能力の程度を慎重に検討する必要があり、4、5、7の項目など「自由記載欄」についてはスペースが少ないため、別紙にてエピソードを交えて記載するなどの工夫をすることも大事でしょう。また、安易な記載をしてしまうと、他の医証との整合性を欠くこととなりかねないので、慎重に作成されることが肝要です。

7 まとめ
 高次脳機能障害は、自賠責保険の後遺障害の中でも等級が1級から9級まで(場合によっては、12級や14級に留まることもあります。)広範囲に該当する可能性があり、その等級判定には上記書類が非常に重要となります。
 等級が1つ変わるだけでその損害賠償額も大きく変わる反面、被害者本人には病識がないこともあり、周囲の家族などが支援していかなければ適切な被害回復も得られないこととなってしまいます。
 交通事故などにより、高次脳機能障害が疑われる場合には、まずは1度弁護士に相談されることをお勧めします。