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お知らせ&コラム

2025.12.02
Q 自己破産のデメリットについて教えてください。

〈回答〉
 自己破産のデメリットとしては、主に次のことが考えられます。
 ①ブラックリストに登録される
 ②自己破産をしたことが官報公告される
 ③全ての債権者を対象とした裁判所での手続きが必要である
 ④生活必需品等を除く一定の財産は処分されてしまう
 ⑤一定の資格・職業が制限される
 ⑥破産手続中は自由に住居を移転できなくなる
 ⑦破産手続中は郵便物が破産管財人に転送されて内容をチェックされる
 ⑧免責不許可の場合、破産したことが市町村役場の破産者名簿に載る

〈説明〉
 自己破産手続の開始と免責許可の申立てを行い、裁判所から免責の許可を受けることができれば、借金の返済義務を免れることができます。本来支払わなければならないものを、法律によって強制的に支払わなくてもよいこと(「免責」といいます。)にするというのですから、そのメリットは非常に大きいといえます。
 しかしながら、当然、その反面、債権者は債務者から回収することができなくなるため、破産を行う債務者にも相応のデメリットが発生することは避けられません。ただし、個人の自己破産においては、債権者間の平等のほかに、債務者の経済的更生を図るという目的もあります。
 したがって、自己破産による債務者のデメリットは経済的更生を妨げない範囲の配慮がなされているのであって、そのデメリットはそれほど大きなものではありません。
 以下では、各デメリットにつき、詳細にご説明いたします。

①「ブラックリストに登録される」
 これは、債務整理全般に共通するデメリットです。
 要するに、信用情報に事故情報(いわゆる「ブラックリスト」)として登録されるということで、これにより、クレジット会社やローン契約を結ぶ者などが取引相手の信用度合いを判断します。
 そのため、新たに借入れをしたり、ローンを組んだりすることが非常に難しくなり、また家を借りる際に、賃貸保証会社がクレジットカード会社系の保証会社である場合などは、賃貸保証の審査に通りにくくなることもあり得ます。
 もっとも、これは自己破産に限った話ではありませんし、自己破産すると決意するまでにすでに借金を滞納している人の中には、すでに信用情報に悪い履歴が残っているケースも多く、デメリットとしてはそれほど大きなものではないと思われます。
 なお、免責許可決定から5~10年ほどは借入れの申込みやクレジットカードの審査が通らない可能性が高いですが、いずれはローン等も組めるようになることがほとんどです。(近年では、早期に借入れができる事情もあるようです。)

②「自己破産をしたことが官報公告される」
 自己破産をしたことは、官報に掲載されて公告されます。
 官報には氏名や住所も掲載されますので、これらの情報を知っている人が見れば特定することも可能であり、知り合いや家族に知られずに自己破産をすることは保証できません。
 もっとも、官報を購読する人はほんの一部だけですし、周囲の人に知られてしまう危険はあまりないでしょう。実際、勤務先や家族に知られることなく自己破産ができたケースも多く認められます。

③「全ての債権者を対象とした裁判所での手続きが必要である」
 個人再生手続にも共通しますが、自己破産では全ての債権者から特定の債権者だけを除外することができません。
 お世話になっている知人からお金を借りていて迷惑をかけたくない、保証人がいるので特定の債権者には支払いを継続したい、等といった事情がある場合でも、その債権者のみを破産手続から除外することはできません。これは、債権者平等の原則同一の債務者に対して、複数の債権者がいる場合は、全ての債権者は平等に取り扱われなければならないという原則のこと)という要請からくる当然の帰結となります。
 また、必ず裁判所を介しての手続きを進めていきますので、裁判所が定める資料が厳格に要求されることになり(住民票や給与明細、通帳等)、またそれとともに相応の準備期間や手続きに要する期間がかかります。
 もっとも、自己破産と免責許可を求める手続は全ての借金を免責するという強力な効果を有する手続をとる以上、最低限の内容といえますし、デメリットとも言い難いかもしれません。

④「生活必需品等を除く一定の財産は処分されてしまう」
 自己破産をする上で、一般的に大きな障害、デメリットとなるのがこの財産の処分でしょう。例えば、持ち家であったり、自動車、20万円以上の預貯金などがあったりすると、これらは全て破産管財人により処分されて売却されてしまう可能性があります。
 もっとも、全財産を処分されるわけではなく、債務者やその家族の生活維持のため、最低限の財産は「自由財産」として扱われ、処分せずに残すことが可能です。
 自由財産の詳細については、過去のコラムにてまとめておりますので、是非そちらをご参照ください。

⑤一定の資格・職業が制限される
 自己破産の手続が開始されると、職業上の欠格事由法律の定めにより、特定の職業に就くことができなくなる要件のこと)として一部の仕事に就くことができなくなります。ただし、これは破産法による制限ではなく、各種法令がそれぞれの政策的目的から破産者について、公法上、私法上の資格を制限しているものです(例えば、弁護士であれば、弁護士法7条4項により欠格事由となっています。)。
 もっとも、この資格・職業の制限は、復権によって消滅します。復権とは、破産手続開始決定に基づいて破産者に生じた各種資格についての制限を消滅させることをいいます(破産法255条2項)。少し複雑なので単純化すると、資格・職業の制限は「自己破産手続き期間中」だけのことであり、手続きが終わってしまえば欠格事由には該当しなくなると思ってもらえれば概ね問題ありません。仕事の関係によっては、失職のリスクを避けるため、自己破産ではなく個人再生手続による債務整理も検討しなければなりません。
 なお、主な資格等の制限は次のとおりです。
 弁護士、公証人、司法書士、税理士、公認会計士、社会保険労務士、不動産鑑定士、警備業者、警備員、生命保険募集人、損害保険代理店、宅地建物取引業者、建設業、貸金業者、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、遺言執行者など

⑥破産手続中は自由に住居を移転できなくなる
 自己破産の手続において、破産管財人が選任されるいわゆる「管財事件」においては、住居を自由に移転することはできなくなります(破産法37条)。
 もっとも、住居を移転する場合には、事前に裁判所の許可を得ればよく、基本的に連絡先が分かるのであれば許可が下りないということはほとんどありません。とはいえ、長期間の出張や海外旅行なども制限されることがありますので、デメリットにはなるかもしれません。当然、破産手続が終了すれば、自由に住居を移転することができるようになります。

⑦破産手続中は郵便物が破産管財人に転送されて内容をチェックされる
 自己破産をして管財人が選任されると、原則として破産者宛の郵便物は破産管財人に転送されるようになります(破産法81条)。なお、転送されるのは、郵便物(荷物は除くことが多い。)だけで宅配便などは転送されません。
 これは、破産管財人が破産者の郵便物の内容をチェックするためであり、破産管財人はこれにより漏れている財産がないか、破産者の財産隠ぺいはないか、漏れている債権者はいないかなどの調査を行うことになります。「通信の秘密」という憲法上の権利を制限することになりますが、破産法82条1項により、破産者宛の郵便物等を開いてみることができることが認められているのです。
 したがって、自己破産の手続の間だけに限られますが、破産者宛の郵便物は破産管財人に転送され、その内容がチェックされることになります。もっとも、管財人のチェック後に破産者に返還されるため、破産者が確認できないということはありません。

⑧免責不許可の場合、破産したことが市町村役場の破産者名簿に載る
 自己破産をしたものの免責が得られなかった場合、そのことが破産者の本籍地の市町村役場に通知され、その市町村役場の破産者名簿に記載されます。破産者名簿とは、本籍地の役所にて管理される非公開の名簿であり、資格や職業の欠格事由(上記⑤)の有無を判断するために利用されるものです。
 資格が制限される職業に就く場合や資格を取得する場合に、会社や団体から「破産者でないことの証明」を役所からとるように指示されることがあり、このときに役所が申請者は「破産者ですよ」ないし「破産者じゃないですよ」との証明(身分証明書)を発行する際に用いられます。なお、他人が勝手に破産者名簿を閲覧したりするようなことはなく、あくまで自主的に取得することができるものです。(ただし、本人・配偶者・4親等以内の親族であれば請求できるケースもあるようです。)
 もっとも、すでに述べたように、「免責が得られなかった場合に限って」市町村役場に通知されるというのが現在の運用です(最高裁民三第000113号平成16年11月30日最高裁判所事務総局民事局長通達)ので、破産者名簿に載るのは免責を得られなかった者に限られます。
 自己破産者の9割以上は免責許可をもらっておりますので、多くの破産者は破産者名簿に載ることはなく、殊更にデメリットとはいえないと思われます。
 なお、免責が不許可になった場合でも、その後に復権を得れば、破産者名簿は閉鎖されます。